今、全10回の講座で、仏教の「四念処」を体験を通して学び直しています。2500年前にブッダが説いたという瞑想の地図と、今わたしたちが「マインドフルネス」と呼んでいるものは、どこまで同じで、どこから違うのか。そんな問いを抱えながら受けた、まだ2回目の授業の記録です。
今回のテーマは、理論よりも「体験」。集中型瞑想、オープンモニタリング瞑想、そしてミャンマーの伝統的なヴィパッサナー瞑想であるマハーシ式を、実際に座って歩いて確かめてみる時間でした。
「気づいている」という状態のなかみ
仏教の言葉には、日本語ひとことでは訳しきれないものがたくさんあります。たとえば「サティ(気づき)」があると、その先に「サンパジャンニャ(正知)」という状態が生まれる、と教わりました。
呼吸をしているとき、ご飯を食べているとき、誰かと話しているとき。「今、自分はまさにそれをしている」ということが、ただ頭で分かっているのではなく、身体ごとはっきりと分かっている状態。それがサンパジャンニャなのだそうです。
そしてその明晰さの積み重ねが、やがて「パンニャ(智慧)」に育っていく、という橋渡しの構造になっているようです。

集中瞑想とオープンモニタリング
海外の脳科学研究では、瞑想を大きく「集中型」と「オープンモニタリング型」に分けて捉える考え方があります(基本的には、ここに慈悲の瞑想を加えた三分類で語られることが多いです)。
集中型は、呼吸などひとつの対象に注意を向け続ける瞑想で、暗闇でスポットライトが一点だけを照らしているイメージに近いもの。オープンモニタリング型は、特定の対象を決めずに、心に浮かんでは消えていくものをそのまま眺めていく瞑想で、ランタンで周囲全体をぼんやり照らしているイメージに近いものです。

集中型は、対象という「戻る場所」があるぶん、雑念に気づいてもすっと戻ってきやすく、心が落ち着いていく感覚があるとされます。
オープンモニタリングは、何かに固執しない分、思考が浮かんでもそれ自体に絡め取られず、自然にふっと消えていくような、かすかな心地よさがあるといわれます。
この現代的な分け方は、仏教で古くからいわれる「サマタ(止・集中の瞑想)」と「ヴィパッサナー(観・洞察の瞑想)」という区分と重なる、と説明されることがあります。
厳密には両者を一対一で対応させるのは単純化しすぎだという見方もあるようですが、ブッダの時代からある古い地図と、いま脳科学が言葉にし直している地図は、同じあたりを指しているのだと思います。
マハーシ式ヴィパッサナー瞑想、お腹とともに歩く
講座の後半で習ったのが、20世紀のミャンマーの僧、マハーシ・サヤドーが体系づけた「マハーシ式」のヴィパッサナー瞑想です。
坐る瞑想では、呼吸でお腹が膨らんだり凹んだりする感覚を拠りどころにして、膨らむときには「膨らみ」、凹むときには「凹み」と、心の中でそっとラベルを貼っていきます。途中で思考や痛みが強く意識にのぼってきたら、それにも「考えている」「痛み」とラベルを貼り、消えたらまたお腹の感覚に戻る。歩く瞑想でも同じように、「立っている」「歩こうとする意図」「右足」「左足」と、一歩ずつ言葉を当てていきます。
この瞑想は、集中型のようにひとつの対象に固定されすぎるわけでも、オープンモニタリングのように何もかもを等しく漂わせるわけでもない、ちょうど中間のような感覚を持つ瞑想法です。お腹というひとつの定点を持ちながら、そこから立ち上がってくる身体や感情、心の動きを観察していく、四念処のすべてに接続していくための具体的な入り口。それが今回のテーマである「四念処を体験的に理解するための基本実践」ということなのだと思います。
宿題は、歩くことと座ること
今回出された宿題は、歩く瞑想と坐る瞑想を毎日同じ時間ずつ続けること。特別な思想を持ち込まず、ただ毎日、机の上に瞑想の時間を置いてみる。この地味な反復こそが、教室で得た気づきを、日常へとゆっくり橋渡ししてくれるのだと思います。MBSRでいう「フォーマルな練習」と「宿題」という仕組みは、そう考えると、四念処という大きな教えを、今の生活に無理なく持ち込むための、とても現代的な工夫なのかもしれません。
おわりに
理論として頭で分かることと、実際に座って身体で感じることの間には、いつも小さな発見があります。古い経典の言葉と、脳科学の言葉が重なる今回の授業は、まだ全10回のうちのたった2回目。次回は、呼吸や姿勢、日常の動作をより深く観ていく回になるそうなので、その記録もまたここに残していきたいと思います。
わたし自身も、毎朝「365日ヨガメディテーション」というコミュニティで、こうした呼吸や身体の感覚をアンカーにした瞑想の時間をガイドしています。ご自身のペースで瞑想を続けたい方は、よかったら一度のぞきにいらしてください。この学びの記録も、メールマガジンで少しずつお届けしていく予定です。
この記事の理論部分は、瞑想研究者アントワーヌ・ルッツらによる注意と瞑想に関する神経科学論文(2008年)、マインドフルネスストレス低減法(MBSR)の公式な成り立ちの記録、マハーシ・サヤドーのヴィパッサナー瞑想の指導資料、パーリ仏典『サティパッターナ・スッタ』を参考にしています。
